私と月につきあって

私と月につきあって―ロケットガール〈3〉 (富士見ファンタジア文庫)

私と月につきあって―ロケットガール〈3〉 (富士見ファンタジア文庫)


SFが好きでラノベが好きであれば、これを読まないのは損失です。主に人生の。
シリーズの三作目ではありますが、この巻から読んでもあまり問題はありません。
いやもう、後書きにも書かれているこの一言、

物理的に可能な解決です。

これが、これがなによりも力強い。
ってーか読んでない人はマジで読め!(命令形)
ホントに面白いのさ! なぜに一度絶版になったとですかと叫びたい気持ちでいっぱいですよ!
女子高生が宇宙パイロットとか言うと、萌え萌えの物語としての骨格なんてカケラも無い、良くも悪くもスライム的な話だとか思われるかもしれませんがッ!(そんな話もモチロン好きですがっっ!)違うんですよ!? これはまったく正反対に位置する物語です!
プロとしての誇りの在り方が、ちゃんと示されています。
現代唯一の秘境であるとも言える宇宙、そこへ行くに足る無謀さと知能とを持った、乙子(オトコ)たちの物語ですよ。
恋愛系の話は一切出てきていません、あくまでも「宇宙へ行くこと」が主眼です。


そう、萌えではなく燃え。
たしかにジャンルとしてはSFではありますが、現実を捻じ曲げるような超常現象は一切起こっていません。どこまでも容赦の無い『物理法則』が全編に渡って支配しています。
そして、そうした物理法則がどこまでも冷徹に支配する場所で、一切諦めることなく現状を打破しようとする姿が、こちらの胸を強く打ってくれやがるんですよ!


詳しくはネタバレになるため一切いえませんが、前半部分、登場するキャラが多すぎるなー、と思っても諦めないでください。
この話の本筋は、起承転結の、転から結にこそあります。
いや、本当に、SF好きなら読まないと損。


文字通りロケットのような推進力で、無茶も無謀も抱え込んで一直線に突き進んでくれる物語です。



以下駄文とネタバレ

うーむ、SF好きならと何回か言っていますが、別にそんなに読んでるってわけでもなかったような……?
なに読んでたっけかなぁ。
えーと、バーチャルガールとかエンダーのゲームとかソングマスターとか第七の封印とかターミナル・エクスペリメントとか夏への扉とか我はロボットとかファウンデーションシリーズとか月は無慈悲な夜の女王とかつぎの岩につづくとか……
……おお、実はけっこう読んでたか。本人びっくりだ。
あ、あとキリンヤガもそうなのか。SFかどうか微妙なラインではありますが。
まあ、とはいっても、本格的にハマってる人にとっては、鼻で笑ってしまうような読書量ではあるんでしょうけどね。


とにもかくにも単純に、面白いし燃えた。
助かったシーンで「よっしゃぁあああ!」と叫び声を上げてしまいましたよ。
文章自体はとても淡々としてるし、むしろ意識して盛り上がりを抑えてる部分さえあるというのに、なぜにこんなに燃えるのか。
読んでいて、これが助かる流れだろうと分かってはいるわけですよ。
「あ、こりゃどっちか死ぬな」とか「うん、このまま月に取り残されて終わるのだな」とかは思わない。
たしかにソランジュの言葉は決死の覚悟を秘めたものだったし、あれはあれで凄いと思ったけれども、それでも死亡するなとは思いませんでした。


なのに、です。
確かに助かるだろうな、とは分かる。それなのに示された現状はすべて「ゼッタイに助からない」と告げている。
神に祈ろうが何しようが月の重力圏からは抜け出せないと、分かっている。
推進力の足りないロケットを用意して、「それで宇宙まで抜け出してみろ」と言われてるようなものです。


諦めたら試合終了ですよとは言っても、相手は物理の計算。人格なんてありはしない。
四則演算で割り出せてしまうもの相手にしては、精神論が入る余地なんて一ミリも無い、あとはもうこちらが譲る以外はなく、結果として誰かを見殺しにしなければならない――――そのはずなのに。
そこからの大逆転。
これはもう、震えるなという方が無理ですよ。
ロケットガール
これはロケットに乗ってるだけの女の子ってことではなく、ロケットに乗るべき正しい資質を持った少女であると思い知らされました。


(……あ、そういえば、一番最初の飛行機の場面。
あの三人が無茶苦茶な運転をして着地したところ。
月からの脱出シーンを考えると、あれって実はでっかい伏線だったんですね。
これを書いてて、ふと理解しました)