一瞬の風になれ 

一瞬の風になれ 第一部 -イチニツイテ-
一瞬の風になれ 第二部 -ヨウイ-
一瞬の風になれ 第三部 -ドン-




おお、すごい直球で青春。
スプリンターにおける強さ、速さ、残酷さ、その他もろもろをこれでもかと詰め込んでる。
事前予想としては『バッテリー』みたいな雰囲気かなぁ、と漠然と予想していたのだけれど、似ているようでいてやっぱり違う。
ありがちな対立構造とか、分かりやすい意味での敵がほとんど出てこない。
ただ速く。
とにかく速く。
色々な個性が、ただそれだけを求めて鎬を削ってる……
って、いやいや、これだと少しばかり意味合いが違うか。
事実としてはそうなんだけれども、それほどギスギスした感じはしてない。
主人公たちはとにもかくにも「かけっこ」を楽しんでる。
その楽しさが、読んでるこちらにも伝わってきます。


競技は、短距離の花形と思われる100mも行っているけれど、むしろ四人によるリレーが主眼。
これもまた、熱い。
とにかく熱い。
1、2、3年生と、三巻のそれぞれが年数とだいたい対応してるので、その中でどれだけ失敗し、緊張し、敗れ、挫折し、また獲得したかが丹念に描かれている。
だから、どのレースであっても「ああ、この場面なら結論は見えてるよね」とか思えない。
現実のスプリントがそうであるように、ギリギリまで集中し、全力を尽くし死力を尽くした上でも、負けるときはやっぱり負ける。
それどころか、勝つだろうなと思える所ですら、負ける。
というか、主人公はそもそもそんなに勝ってない。
同じ部活内のライバルが常に上にいるので、ほとんど一位になれない。
努力型が天才型を追い越すのは少年漫画では王道だれど、天才だって努力をするわけで、おなじ練習をすれば当然天才型が上を行く。
そんな、残酷だけれども当たり前の公式が、ごく当たり前のこととして描かれている。
天才型に追いつけない、努力型の主人公。
でも、それでうじうじ悩むわけでもなく、だいたいがスカッとしている。
これが、やっぱり読んでて清々しい。




……実は本屋で立ち読みをした時、迷わずスルーしてたんですが、もう一度手にとってみて正解でした。
だって、ぺらぺらと流し読みしていた時、たまたま目に入ったフレーズが、ですね――

兄貴はセクシーだ。髪とか濡れてると特にな。


読んだ瞬間、笑顔で本を閉じ、足早にそこから逃げ出してましたねー。
別にそっち方面には進んでなかったので一安心。
とても正統派で、とても密度の高い青春ものでした。


ハードカバーなので高めですが、おすすめです。