スパイダー・ワールド 賢者の塔

スパイダー・ワールド 賢者の塔 (講談社ノベルス)

スパイダー・ワールド 賢者の塔 (講談社ノベルス)



まず、砂漠を思い浮かべてください。
サハラ砂漠など、砂だけが広がる場所ではなく、岩などがゴツゴツとありほとんど草木の生えてない場所。
具体的には原水爆を百発ほどぶち込んで地表をキレイさっぱりさせたような場所です。
そこに、少年がいます。
上には気球が浮かんでいます。
巨大なその気球の中には、巨大な蜘蛛が一匹。
人間の恐怖心に反応し、捕食する蜘蛛です。
蜘蛛が触手を伸ばして探知する真下、少年とその家族は、岩穴の中でじっと待たねばならず……


ってな雰囲気で進む物語。
砂漠の中で捕食者に怯えながら、万物の霊長の地位を追われた人間がサバイバル。
昆虫たちはどれも人間大というすばらしさで、昆虫嫌いの人にとっては悪夢以外の何者でもないでしょうが、この昆虫たちの動きが、実に面白いんですよ。
おそらくは現実の昆虫たちの働きを参考にしていると思うんですが、これが人間大となると、とてつもなくドラマチック。


少しだけネタバレ覚悟で紹介すると、アリの幼虫をかっさらって自分たちを親として認識させ、地面を掘らせたり遠くの植物を採ってこさせたりとか…………うーむ、なんだかこうして書いてると奴隷労働みたいですが、撫でたら喜ぶ様子とかはめっさ可愛いです。現実に、他の昆虫がアリの幼虫をかっさらって有効活用というのは実在しますし、これもまた調べた上で書いていると思われるので、細かい部分で妙なリアリティーもあります。
ただ、そんなに美味しい話ばかりということでもありません。
この世界では、人間が絶対の位置にいるわけではなく。生態系の頂点に死蜘蛛がいる世界なので、逆に人間が奴隷兼食料として捕らえられていたりします。


死蜘蛛の持つ力は、恐怖心を探知する能力とその身体性、そしてある種のテレパシー。
糸を張り巡らせる代わりにこのテレパシーで絡め取って、巣へとエモノを運ぶわけです。
文明が滅んでしまった人間の持つ武器は、手斧や石斧とかって世界なので、死蜘蛛に対抗する手段は無し。
狩られて養殖されるだけの運命。
だけれども、原始の生活にもどった人間、特に主人公である少年は、人が本来持っていた(とされる)テレパシー能力を体得し、死蜘蛛のことを徐々に学び始め……


とまあ、そんな超人類的な史観を元に話が進んでゆくわけですが、
個人的に一番のポイントはそんなところではなく、ヒロインです。


ヒロインが実妹……!


他にも出て来ますがメインヒロイン、相思相愛の純愛の相手は明らかに彼女です。
ハッハ、書かれたのは87年だというのに実に先見の明がある!
描かれてるページは少なく、これを目当てに買うことも無いとは思いますが、個人的には、かなりの破壊力がありました。


だって、ねえ。
お互いのテレパシー能力(もどき)でお互いの感情を確かめ合うとか、囚われの姫状態とかね!
いやいや、インセストタブーはどこにいったんだとツッコミを入れたくなるほど、迷いとかまったく無し!
というか主人公、他の女に振られるたびに「やっぱり妹の方がいい」的なことを考えるのは人間としてどうなんだと小一時間(略


まあ、ともあれ人間大昆虫の観察日記と超人思想と実妹萌えとが重なった本書(←紹介として致命的に間違えてる)、おすすめではあるんですが、どうも、すでに絶版っぽいんですよね。
私自身、買ったのは古本屋ですし、続きの巻があるらしいのに、どの本屋でも売っていない。というかそもそも存在してない!
うーむ、アマゾソに手を出すべきか……





……というか、新年早々にいったい自分は何を書いてるんだろうと思わなくも無い今日この頃。
なにはともあれ本年もよろしくお願いします〜