断章グリム


えー、これの一つ前。
二巻の後書きにて「グロは書いてるつもりはない」とか書いてありました。
いま実物が手元にないので、細かいニュアンスは憶えてはいませんが、確か。


いやいやいや、作者どの? ウソはつかないで頂きたい!


そりゃ言葉上の細かい定義だとそうじゃないのかもしれませんが、これをグロでは無いと言い張るのは無理ありすぎですって! 成分で言えば七割くらいは含有してますよ!
10割じゃないからと言って、それで違うってことじゃないでしょう!
少なくともラノベでこの方向性を専門に突出してるのは作者殿だけですってば!


あー、本当に、やばい。
妙に身近な恐怖だからこそなおのことやばい。
リアルに想像できてしまうのが一番危険ですよ。

いえ、面白いんですけどね。
ジェットコースターやお化け屋敷的な楽しみ方。
「嫌だー!」と叫びつつも口は笑ってる、みたいな。
なかなか恐怖度合いと言うか、薄気味悪さ度合いが高いです。



あ、それと実は、私いままでこのタイトルを見ただけで手を取ることを躊躇してたんですよね。
こうしたパターンの物語って、あんまり面白くないなぁ、と常々考えていたんです。
己の不幸を鬱々と悩んだ末に、それが原因で悪魔が召喚されたり魔術が発動してるのを見ると、「おいおい現代人の精神力って昔と比べたら低いだろ。あとその程度で発動するんなら紛争地帯とか阿鼻叫喚の地獄か魔境になるんじゃないだろうか」ってツッコミを入れたくなるんです。
また、いわゆる現代の闇とか歪みとかを元にして話が構成されることが多いので、どこか説教臭くなるのも嫌なところ。
モラルの低さの原因をご先祖さまやら悪霊やら妖怪やらに求めるのって、なんだか人間の自主性をバカにしてると思いませんか?
まぁ、最善であっても、グリム童話をそのまんま現実の物語に当てはめたような、なんだかちぐはぐで歪みの多い小説なんだろうなぁと、漠然と予想したんです。


いや、これは、たいへん間違いでしたよまったくもって!
ヘンな予想をして申し訳ないと土下座してしまうほどの勘違いでしたよ。
個人的に不満の多かった現代ホラーもの、これをこういった調理で出してくれるとは!


童話を元にしているんですが、それはあくまでも「物語の原型」としてであって、そのまんまが使われてるわけじゃないんです。
神の悪夢と呼ばれるものが、童話という形をなぞって影響を及ぼすものであり。あくまでも「災害」という位置づけ。
人の意識が介在せずランダムに起きるところも含めれば、自然災害と言った方がいいのかも。
恨みが超常現象化するわけでも、怪しげな結社が暗躍するわけでもなく、ただ悪夢がひろがる。ここでは「泡禍」と呼ばれるものに憑かれた人のトラウマを元に、物語がひろがってしまう。
こうした、誰の利益にも何の為にもならない『魔』は、ただそれだけで物語が薄っぺらにならず素敵です。


また個人のトラウマ+「神の悪夢」なので、童話をそのままなぞるってわけでもなく、物語の先読みが難しくなっています。

「童話に似たような悲劇」が起きているのに、その先が読めない。この手が届くようで届かないもどかしい感じは、どこか推理小説に近いような気さえします。

考えてみれば主人公も、どこか名探偵っぽい役割ですし。


ともあれ血とか痛みの描写に耐性があればお薦め。
逆にリストカットとか流血とか助からない被害者とかのキーワードを忌避するならば回避推奨です。