いま、殺りにゆきます

いま、殺りにゆきます (英知文庫)

いま、殺りにゆきます (英知文庫)


えーと、ウソ、ですよね?
こんなふざけたタイトルですし、内容もかなりイってるし、どこか怪談話めいてますし……いや、確かに超常現象こそ起きてませんが……
というか、いま、めっさ背中が寒いんですが……
ええ、実はですね、感想かこうかとページをぺらぺらとめくっていたら、副題を見逃していたことに気がついたんですよ。


実話恐怖譚


……あれー?
おかしいなぁ。
ぼく、かんじのいみがよくわからないや! あはは!


…………違い、ますよね?
ええまちがなく、紛れも無く、これはフィクションですよね!
ここに書いてあることがホントだとしたら、それがなによりも恐怖なんですが!?
「読んでて嫌悪と吐き気を催すものの、現代のいろんな面での暗部と闇を描いた、実に秀逸な短編集だなぁ」とか感心していたのに! 作者の力量に感嘆していたというのに! 他の著作も読んでみようかなと確かめ、目に飛び込んできた「猟奇殺人を描いたノンフィクション『異常快楽殺人』を発表し作家デヴュー」なんて文字は錯覚に違いないんですよね! 
いや、本当に、冗談ぬきで、ふぃくしょん、でしょ、これ。


出版社/著者からの内容紹介
精神に異常をきたす恐怖がここにある…衝撃の実話恐怖短編集。

……ああ、きっとあまぞんはうそをかいてるんだ(←超現実逃避


いや、まぁ、冷静になってよくよく考えてみれば。実話を元に創作したんでしょうけどね。
もしくは噂話を聞いてそれを参考に、とか。
インタヴュー形式っぽく話が構成されてるのもそれっぽい感じですし。物語も、刑事事件レベルのものがほとんどですし……
確かに「これはフィクションです」とも「これはノンフィクションです」とも明言されてないので、最終的にはどちらとも判断付きませんが、これは…………


いや、いやいやいや。
うん。きっとこれはウソだ。
ウソだったってことにしておいた方が精神安定上のためにいいので、そういうことにしておきます。


あ、ちなみに、本書はホラーとかグロとかに、ある程度の耐性がないと本書は無理です。
絶対に不可能です。
無ければトラウマになります。
いくらかは斜め読みでかっとばさないと、私には読めませんでした。
ゴ……が出てきて使われたり、骨が…………とかね、
いやもう、日常生活を舞台にしたもので、これ以上アクセル踏み込んだものってそうそうありません、というかありえません。


ただ、それらを抜きにして読めば、優れた短編集であることは確かです。
とても上手く『暗部』を突いてるんですよね、この小説。
意識の闇だったり死角だったり家であったりシステムであったりするわけですが、とにかく日ごろ意識してない部分の、あえて目をそらしている部分に向けて、錐のような鋭さで貫いてくれやがります。


なにせ犯人たちの行動理由が意味不明で理解不能
性的な犯行であればまだ理解の範疇だというのに、それすら行わないものが多数。
(どうでもいいですが、現代の闇=性的な抑圧というのがあまりに一般化されすぎて、むしろ陳腐極まりないものになっているように思えるのは私だけですかね)
人の狂気、いや、『理解できない他人の行動』が、とても秀逸です。
なによりも怖いのは人間であると、まざまざと納得させてくれる本です。



以下ネタバレ

本書がノンフィクションであったら何が嫌かって、「おら男」が実話であることが、一番嫌です。
あの満員電車の中で、女子高生を殴り続ける男の話です。
どんなに人数いようが、ナイフ一本で黙ってしまう一般人。
なにもできず固まったままで、携帯電話すら掛けられない。
こんな情けない姿がホントなら、心底嫌だなぁ、と思うのですよ。
都市伝説としてなら受け入れられますが、事実として語られるのは、どうにもこうにも……


ただ「もしかしたら、ひょっとしたらありえるかもしれない」と、事実の可能性を認めてしまう自分がいて、それが何より憂鬱です。
自分がその場にいたとしたら一体どうするのか。
立ち向かうことは出来なかったとしても、友達経由で警察にメール連絡とか、そこまでの冷静さは持てるかなぁとか、果たしてこの状況で立ち向かえる日本人って、いったい全体の何パーセントなんだろう、とか。
そこら辺を考えると、さらに気分がダウナーに……