“文学少女”と繋がれた愚者(本文微妙にネタバレあり!)

“文学少女”と繋がれた愚者 (ファミ通文庫)

“文学少女”と繋がれた愚者 (ファミ通文庫)


ハッ!
なんだこれは!
冗談ではない!
まったくもって冗談ではない。


凄すぎて吐き気がするわ!!!


嫉妬スレの血塗れ竜と食人鬼*1を読んだ時と同程度の衝撃食らったさ!
ラノベで言えば狼と香辛料と同じくらいの高評価、個人的に。特に――ああ、もう、なに言ってもネタバレになる……!


正直、このシリーズの二巻を読んだ時には「一巻ほどの衝撃は無いなぁ」とか呑気なことを思っていたのだけれど、そしてこの巻も途中までは「おお、面白い」とかしか思ってなかったのだけれど!
いや、とにかく買うべし。
一巻と二巻買ってる人は買うべき。
どれだけ体質と合わなくても、値段分の価値は絶対ある。


この“文学少女”シリーズ(って呼んでいいのだろうか?)の特徴のひとつである元となる文学小説とのリンクも、すごく上手く扱っている。
前回までだと現実が小説のあらすじをなぞるような形で、いまいち溶け込んでいないなぁと感じていたけど、これを演劇って形にすることで、小説に登場する台詞が、心情がもの凄くマッチしている。いや、元の小説を読んでないので、もしかしたらただの勘違いの共感なのかもしれないけど、「ああ、こんな気持ちでこの台詞を言ったのか」ってことがダイレクトに伝わってくる。
劇中劇なんだけれど、現実の物語も含め、ここまでちゃんとリンクさせているのはとてつもない。


そして相も変わらずドロッドロ。
文学にありがちな暗さや情念がこれでもかってくらいに盛りだくさん。
いやホント、まんま嫉妬・三角関係・修羅場統合スレ*2ですよ。


とはいえ、最終的にそれほどぐっちゃんぐっちゃんになっていないのもまた事実。
基本はそれですが、爽やかなところも、救われてる部分もちゃんとある。
コーヒーで言えば、濃くて暗い部分とクリーミーでさっぱりした部分が混ざることなく並んでて、口に入れた瞬間に深いコクと香りが満たしてくれるみたいな。うむ、やっぱり上手く行かない。
“文学少女”こと“妖怪”こと遠子先輩が、やっぱり強い。
だからこその、この爽やかさ。
この人のヘンさ加減が、食べてしまうほど文学が好きな感性が、物語的な関係に囚われた登場人物をちゃんと救っている。
逆に言えば主人公である心葉だけでは、まったくもってどうにもならない。うん、きっと。


以下、完全ネタバレ。


ラスボス登場!
読み終わってけっこう満足だったのに、最後の最後でめちゃくちゃテンション上がりましたよ。
なんだそれは! なんの冗談だ!?
そういえば死んでると明言されてなかったけど、思わぬところで思わぬつながりで、完璧不意打ちにされたので、ダメージがでかかった!


うわぁ、まったくもって。完全にやられた。
怨念、情念、恨みつらみの五寸釘。それに小さじ一杯分の愛。
手紙越しとはいえ、それがものっそい伝わってくる。
劇の終わりで心葉が、もう泣くのを止めて立ち上がろうと決意し、エピローグで芥川との小っ恥ずかしい上にどこの昭和学生だお前たちって会話の後だったから、尚更その対比が……
「愛と憎しみは同じもの」って台詞がありますが、ここまで一身に想われたら、幸不幸を越えて衝撃しかない。


いや、しかし、考えてみると主人公である井上心葉の鈍感さ、物語の類型としてよくあるパターンだけども、ここまで凶悪だともはや武器とか兵器ですね(断言。
人ひとり殺しかけてるとか本気でしゃれになってない。
しかも現在進行形。
被害者をぞくぞくと増やしてる。
個人的にそんなに反感は感じてないはずなんですが、よくよく冷静に考えて見ると、最大の原因は主人公である井上心葉にしかないんでは。
無知は罪というよりも鈍感さが凶器。
ハーレム状態にあって、これほどまでに羨ましくない主人公は珍しい。


ターゲット完全にロックオン。
あとは引き金を引くだけ。
太陽を目指したイカロスのように、立ち直ろうとしてる所を思いっきり叩き潰される。
それを少し楽しみにしている自分がいてちょっと嫌だ。
でも一面、当然の報いではあると思う。
見舞いくらいには行けよ。生きてたんなら。


あー、しかし、考えてみると朝倉美羽と遠子先輩って、まったくの正反対なキャラクターですね。
水と油どころではなく、ありとあらゆる面でまったく逆。
朝倉美羽が飛び降り自殺を行ったのは、恐らくは心葉の小説を読んで己の才能の無さを悟ったとか、まあ、そこら辺でしょうし。結果として文学を恨み心葉を恨み、自身を含めたあらゆる可能性を否定している。
自暴自棄になって、あらゆる手段を用いてでも復讐したいっていうのは、きっとそういうことなんでしょう。
文学の持つ力を心底信じ、好きでありつづける遠子先輩と、こちらも奇妙にリンクしているような気がします。

*1:未成年不可、血とか苦手な人も回避、小説自体はこちらから

*2:だから18禁ですよ?